2010年4月14日水曜日

母子

view photostreamUploaded on October 30, 2005
by shibainu


ふぅ~。

疲れたねぇ。

遠いから。

ちゃんと手洗って、うがいしてよ。



ねっ、さっきのケーキ食べようか?

ほら、美味しそうでしょう。

どっち食べる?

じゃ、ママはチーズケーキ!



今日は、お利口だったわねぇ。

ママ、感心しちゃった。

そっか、もう六年生だもんね。

早いねぇ~。



うん、桜きれいだった。

ちょうど、満開で…。

きっとパパも、お花見してるわ。

お供えしたビール飲みながら。




*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。

2010年4月8日木曜日

雨夜

view photostreamUploaded on December 7, 2006
by pict_u_re


ちっ、まだ降ってるよ。

本降りだな、こりゃ。

なんだか胡散臭い話だったなぁ。

どうよ?



そりゃ、贅沢言ってられないけどさぁ。

なんか、なんかだなぁ。

結局、俺たちを便利な売り子に使おうって話だろ?

今さら、お前…。



近頃、池袋の方はどうよ?

そうかぁ。

あっちも、景気商売だもんなぁ。

ったく、よく降るな、この雨。



そうだ、奥さんどう?

そう、そりゃ良かった。

大事にしないとな。

いや、ホント。



分かってるって。

子供欲しいってのは、昔から耳にタコだよ。

ようやくだな、お前が親父か。

頑張らなきゃなぁ。



…。

さっきの話、ダメ元でやってみるか?

いや、そりゃ怪しいと思うけどさぁ。

この際だ、贅沢言ってられないだろ?



それにしても、よく降るなぁ。






*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。

2010年4月7日水曜日

夜海

view photostreamUploaded on May 1, 2008
by sor


ちょっと、ちょっと、アンタ。

何をしとるん、こんなとこで?

海見とるって、もう真っ暗やで。

アンタ、夕方からずっと居るやろ。



なんちゅうか、この辺りは妙な具合に有名でなぁ。

遠浅に見えて、すぐに落ち込んどるし潮も早いし…。

いや、なにもアンタがそうやと言うのでは無いのやで。

ただ、そういう人がけっこう多いんでなぁ。



そら、人ひとりの後始末ちゅうのは大変や。

いや、なにもアンタが謝るこたぁ無いわなぁ。

アンタがそうやと言うのや無いで。

まぁ、そういう場所やと言うこっちゃ。



帰るって、もうバスは無いでぇ。

ふ~ん、困ったなぁ。

こんなとこに居ったら、体が冷え切るわぁ。

ちょっと、ウチに寄って、温もって行きや。



なんや、ワシとバアさんだけや。

遠慮なんか要らんがな。

風呂入って、酒でも付き合うてや。

バアさん相手で、ワシも飽きとったんじゃ。

何も無いけど、都会の話でも聞かせてや。

  
なぁ、そうしぃや。





*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。

2010年3月30日火曜日

浅田真央という美




フィギアはおろか、スケートという競技すら、まったく判らない。

しかし、浅田真央の演技には魅了されてしまう。

彼女の演技は、他の選手とは全く違うからだ。

浅田真央は、リンク上に彼女を中心とした別世界を創り出している。

それがフィギアという競技として、どうなのかは知らない。

ただ間違いなく、そこには美がある。

それも人智を越えた、なにか怖いような美しさだ。




その美しさの正体を、判るように説明してくれるメディアが無い。

馬鹿げたライバル話か、愚にもつかない技術論ばかりだ。

仕方ないので、自分なりに考えてみた。




まず、音楽と一体になった流れるような動きや、軽快なステップに魅了される。

まるで音楽そのものが、人の体を借りて踊っているようだ。

表情から指先まで、すべてが音楽になっている。

これでなお、表現力が足りないという人の感性が、私にはどうしても理解出来ない。




しかし、なにより惹きつけられるのは、困難なジャップする直前だ。

スピードにのりながら背筋を伸ばし、進行方向へやや首をねじる。

ジャンプのタイミングを待っている、その瞬間だ。

それはまるで時が止まったかのような、神々しい一瞬。




そのジャンプは、彼女だけが挑む。

しかし、大きなリスクの割に採点上のメリットは少ないという。

それでも、彼女は飛ぶ。

点数などではなく、より高きものの為にだ。




ここで唐突だが、ふと、弟橘媛を思い出してしまう。

大和尊の為に、荒れ狂う海へ身を沈めた弟橘媛だ。

恐ろしい海神に身を捧げる時、彼女は涼やかな顔をしていたに違いない。

なぜなら弟橘媛には、より貴いものの為に命を捧げる覚悟があったからだ。

それは、相模の野で火攻めに合った時に我が身を案じてくれた、夫の真心に報いるという気高い思いだ。




困難なジャンプの直前に見せる浅田真央の一瞬の静寂にも、同じような気高さが満ちている。

力むでも無く、怯れるでも無く、氷のような冷静さで次の瞬間を見据えている、その表情。

より高いものの為に、自らを顧みない透き通った心が菩薩の顔となって現れる。

私を魅了してやまないのは、この一瞬の空気と彼女の表情だ。




そして次の瞬間、彼女は空を舞う。

強く、早く、華麗に…。

見事に着地を決めても、まるで何事も無かったように音楽の化身は踊り続ける。

それはもはや、人とも思えぬほどの美しさだ。







2010年3月27日土曜日

思慕

view photostreamUploaded on September 29, 2008
by open-arms


ねぇ、もう止めておきなよ。

飲み過ぎだってば。

そりゃ、商売だけどさぁ。

…。



どうしたの?

今日は何か変だよ?

仕事で、なんかあった?

…、女だ。

 

彼女と喧嘩したんでしょ。

あのさぁ…。

悪口じゃないのよ。

ただ、あの人はやめた方がいいよ。



そりゃ素敵な人よ。

綺麗だし

センスも良いし

でも…。



ヘンな意味じゃないよ。

なんか、良くないって思うんだ。

…、あなたの為には。

おせっかいだけどさぁ。



なんだ、寝ちゃったの。

なにやってんだろ、アタシ。

バカみたい

ったく…。









*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。

2010年3月19日金曜日

廃屋

view photostreamUploaded on July 11, 2009
by sun_summer


ちょっと、あんた。

そこは空き家だよ。

なんか用かい?

…ふ~ん。



女の子?

…あぁ、憶えてるよ。

確かウチの孫と同級だった。

知り合いかい?



もう十何年になるかね。

奥さんが、あんな事になるなんてなぁ。

田舎だから、なにも無くたって噂になる。

そりゃ、居辛かったんだろう。



旦那は、娘さん連れて直ぐに越してったよ。

それっきり、どうしてるのやら…。

あの娘さんも、幸せになってくれてれば良いけど。

なんつったっけな、あの子…。



そぅそぅ、そんな名前だった。

幸せだった? そりゃ良かった。

ん? だった…って?

ちょっとアンタ…。


なんだい、行っちまったよ。







*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。

2010年3月17日水曜日

孤独

view photostreamUploaded on November 18, 2009
by i764gt


ふぅ…。

まぁ、大往生だ。

眠るようだったし。

うん、穏やかな顔だった。



夏は必ず来てたな、ここ。

ありゃ、おふくろが来たかったんだな。

親父は、なんだか仕方なさそうだった。

海の家に、タイヤチューブの浮き輪。 



とうとう、これで独りぼっちか。

親も無ければ子も無い。

なんだかなぁ…。

やっぱり親不孝だったよなぁ。



そうか、独りか…。

独りぼっちなんだな。

…。

なんだかなぁ。




*小さな物語は、写真から想起したフィクションです。